燕妮
【要旨】2011年中華人民共和国教育部から全国高校英語教科書網要の中で「外国語を通じて、他国の文化に対する認識と理解を深め、他国の言語と文化を尊敬できるように努力し、さらに自民族の言語と文化を理解し、生徒の人文素質を育てること」という指導目標を示している。教科書を通じての外国語学習において、ことばと関わりのある文化への理解を深めることが目標であるので、その文化の記述や扱っている文化題材は考察の必要があるように思われる。日本の英語教科書は扱われている異文化教材の数が非常に多く、同じ教科書で取り上げている自国文化の数よりもはるかに多い。この意味で、日本の教科書は異文化理解が内容の主軸となっていると言って良い。一方で中国ではTOIEC、TOEFLなどのデータでは日本人の受験者より高得点を示しているが、その教科書には異文化理解という特徴はほとんど見られない。本稿では中日高校英語教科書の分析を通じて、異文化理解の扱いを把握し、異文化理解の重要性が分かった。
【キーワード】異文化理解 英語教科書 文化題材 中国 日本
1、はじめに
国際化進んでいる今日、文化背景が異なる人々の接触が頻繁になっている。外国との距離が近くなると、交流が深まるだけでなく、時には摩擦が生じることもある。そのような社会の変化を対応するために、国際社会を生き抜く子供を育成するために、外国語を学ぶことだけでなく、その言葉の背景にある文化を理解していくことである。さらに、世界中に存在する文化様々な文化について、自文化との違いを認識し理解させることである。学校教育の中でこのような条件を満たすのは外国語教育であろう。中国と日本の外国語教育では英語が履修されており、国際社会を生き抜く力を身につけるという点で英語教育が重要な役割を果たしている。通常、学校教育では教科書を使用して授業を行っている。本論では中日英語教科書における異文化理解の扱いを知るため、文化題材の観点から分析を行う。英語教科書についての先行研究は、教科書の題材分類や頻度、扱っている国、登場人物などの量の分析はたくさんなされているのに対し、題材の問題点を指摘した質的研究は少ないと感じた。そこで、英語教科書の量的分析を行ったうえで、さらに質的に考察していこうと思っている。
2、調査対象及び研究方法
中国と日本の英語教科書は全国で及ぶ学校で現在使用されているという意味で、代表的な中国人民教育出版社のNew Senior English for China(必修1~5、選択6~9) と日本の三省堂出版社のCROWN English Communication Ⅰを分析の対象とした。中国の英語教科書は高校年間4冊、各110ページ程度で、日本の教科書と比較してから、かなりの分量である。
① 量の分析:日中年間学習量、ページ数、課数を調査し、結果として、中国の年間学習量は単純に教科書のページ数でみると、日本の2倍以上である。
② 文化題材内容を分類し、日中を比較するように研究する。
A: 地理·歴史、風俗習慣や伝統文化、言語·コミュニケーションなどを内容項目にする。
B:英語が母語、公用語、外国語のいずれとして使われているかによって、地域·国を3種類に分ける。
教科書の年間学習量と全体の構成は、日本の場合と対照させると、調査してきた。結果としては図-1である。
3、中国の英語教科書に見る異文化理解(必修1~5)
中国の英語教科書を以上の分析方法を通じて、全体を見てみると、英語が母語として使われている国々は各文化題材に登場する割合が大きい。特に、アメリカ、イギリス、カナダが占める割合が多い。外国のことは全体68%の割合である。中国は32%を占めている。地理·歴史は20%を占めているが、中国だけ、半分以上に至った。どちらかというと、偏重すぎではないかと思っている。一方、中国の教科書選択6~9では、外国文化を中心として紹介する傾向が見られる。そして、教科書の中で、イラスト、登場人物、登場国などから見ると、男女平等、人種差別、人権、ステレオタイプような国際理解に関する文化題材も示している。調査データは以下の図-2-①と②である。
4、日本の英語教科書に見る異文化理解
CROWN English Communication Iでは、取り上げた題材テーマは言語·芸術·科学·環境·遺跡発 掘·動物の知性·格差社会·情報化社会·平和·生き方など、多岐にわたっている。
日本の英語教科書を分析すると、内容は外国の題材が多かったようで、全体76%の割合である。日本は24%で、そのなか、2位になっている。アメリカ32%で、一番大きい割合を占めている。風俗習慣はまったく出ていない。伝統文化も3%しか出ていないである。そこから見れば、日本の英語教科書は外国文化を非常に重視しているといえるかと思っている。調査データは以下の図-3-①と②である。
異文化に言及している部分を地域·歴史、生活、文化、物語、人物、グローバルなどに分類すると図のⅠのようになる。この図から見ると、中国の教科書では、日本のものと比較してかなりの分量が多いが、とり上げている異文化は非常に少ないと言える。中国のほうが自国の地理や歴史の割合が大きいのが見られる。中国は、道具として、英語を使いこなし、自国の人物や文化について、英語で表現できるようになることに主眼が置かれている。そのため、万里の長城、中国人宇宙飛行士、北京オリンピック代表(劉翔)、農業科学者(袁隆平)、中国に関わることが多い。一方、日本は異文化理解を重視し、国際平和に重点を置いている。戦争や環境や国際的な話題が多い。それに対し、日本の自国文化は非常に少ない。総じて、外国文化の導入、自国文化意識の育ちが同等的重要な位置に置くべきだ。
5、おわりに
以上中日の英語教科書の比較とともに、中国の英語教科書の必修教材が中心として調査を行った。中国の英語教科書は、原則的に英語だけで書かれている。しかしながら、日本は文章がほとんど英語で書かれているが、言葉の説明や練習問題の質問や文法など、日本語と混ぜて書かれている。そうすれば、日本語としての意味で英語を解釈しようと、文化の影響で、意味が食い違ってしまう。異文化コミュニケーション能力を育成のために、文化摩擦を緩和するために、英語で説明すればよいと思っている。
本論では、日本と中国高校の英語教科書を量的分析した上で、さらに質的にも分析した。新学習指導要領においても言語や文化の理解を深めることは指導目標として規定されており、今後も教科書の文化題材の割合を考える必要があると思われる。異文化理解を進めるために、本論の調査データから、英語教科書の発展、改革トレンドに役に立てるように期待している。
6、今後の課題
本文以外の導入会話、練習問題などにも異文化交流を扱う動きも見られるので、これからの研究では、より全面的に、かつ細かく内容の調査を行っていきたいと思う。そのために、日中両国の高校英語教科書における異文化理解の扱いの現状と、この現状をもたらす原因について探りたい。
そのうえで、他の出版社の英語教科書を調査の視野に入れる。また、教科書の本文、導入、練習部分などの内容の文化題材を分類し、比較を行っていきたい。そして、比較の結果をみながら、日中それぞれの国内外環境から原因を探りたいと思う。さらに、教科書から異文化交流や国際理解に関するところを検討しようと思う。
【参考文献】
[1]『異文化コミュニケーションへの招待』,鍋倉健悦,北樹出版社, 2005年
[2]「中国高校英語教科書の文化の取り扱い」, 林田享子
[3]「淺析本土文化與高中英語教材編寫」,劉文
[4]「日本の中学校英語教科書にみる異文化理解-題材の観点から教科書分析- 」,金田尚子
[5]「英語教科書と異文化理解」,鈴木賢司
[6]New Crown EnglishⅠ ,三省堂,2004年
[7]New Senior English For China(1~9),人民教育出版社,2004年