【要旨】光源氏の愛を得ながら、彼の浮気を受け忍ばなければならなかったから、『源氏物語』の女主人公としての紫の上の人生は光源氏から大きな影響を受けたと言える。それと同時に、紫の上も光源氏の政治的世界にいろいろな影響を与えたと思う。本文は紫の上が登場したから亡くなったまで、光源氏の政治的世界への影響を詳しく検討する。
【キーワード】光源氏;政治的世界;紫の上;影響
一、序論
『源氏物語』の中には、主人公の光源氏と恋愛関係がある女性が大勢いた。秋山虔氏によると、「ことに本系の巻々において源氏の出会う女性は単なる異性ではありえなかった。彼女らは特定の家門の人として特定の経歴を生きる人として物語のなかの政治的世界に生かされている存在であるがゆえに、源氏の進退もまたおのずから政治の現実に深く関与することになる。」と指摘している。女主人公としての紫の上はその女性たちの一人であった。幼い頃母を失った紫の上は十歳の時に偶然に光源氏に発見られた。夢の恋人の藤壷によく似ていたから、紫の上を自宅に迎えられて、理想の女性の標準で育ったれた。それは光源氏の政治的世界を生き返ることだと思う。そして光源氏と結婚して、第二の正妻になった。光源氏は須磨へ流離された時、紫の上は女主人としてきちんと家を管理してくれた。明石姫君を引き取った時、子供がいなかった紫の上はわが子として明石姫君の養母になって、養娘を愛育してくれた。身分の高貴な女三の宮を娶った時、紫の上は心内の嫉妬を隠蔽して、積極的に協力してくれた。それらは光源氏の政治的世界を頂上に進めることだと思う。最後、出家の願いは光源氏の愛執で許されなかったから、紫の上はますます憂鬱して、ついに絶望を持ってこの世を去ってしまった。それは光源氏の政治的世界を壊滅させることだと思う。
光源氏の女性たちの中で、登場するから死ぬまでずっと光源氏のそばに寄り添ったのは紫の上だけである。光源氏は紫の上の人生を一変した大切な人だと言える。それと同時に、紫の上も光源氏の政治的世界にいろいろな影響を与えた不可欠な人だとも言える。本文は紫の上が登場したから亡くなったまで、光源氏の政治的世界への影響を詳しく分析する。
二、紫の上の登場——光源氏の政治的世界の蘇生
秋山虔氏は「光源氏はついに藤壷と密通し、その結果冷泉院が生まれる。……(中略)しかしながらその栄華は藤壷との世に知られてはならぬ密事を土台とするものである以上、冷泉院をわが子と呼ぶことはできないし、また真相の発覚を恐れる藤壷に近づくことは許されない。彼の多面的な女性遍歴﹦好色は、この藤壷への果てしない渇望と不可分の関係にあるだろう。」と述べている。深い思いをかける人に近づくことはできなかったので、光源氏の世界は暗くなってしまった。この時、十歳の紫の上を偶然に見出した。まだ十歳ばかりの少女であったせいか、源氏の関心を強くひきつけるような存在ではなかったが、「さるは、限りなう心を尽くしきこゆる人に、いとよう似たてまつれるが、まもらるるなりけり。」(二八一~二八二頁)そのうえ、「何人ならむ、かの人の御かはりに、明け暮れの慰めにも見ばや」、(若紫巻二八四頁)とまで思う源氏であった。紫の上は藤壷の姪であったから、彼女は藤壷の形代として登場した。紫の上のおかげで、光源氏は藤壷への深い思いを移ることができたり、藤壷と共有した罪も隠蔽されたりした。もし紫の上という人物はいなかったら、光源氏の性格によると、彼は手を尽くして藤壷に近づいたかもしれない。そうすると、彼と藤壷との密通事件は他の人に知らせる恐れがあり、冷泉院は桐壺の帝の子ではない真相も世間に公開される可能性もある。その結果はどんなひどいのは想像しがたい。たぶん藤壷と冷泉院の人生だけでなく、光源氏の政治的道もここまで終わるだろう。幸いなことに、実は桐壷の帝は冷泉院を東宮に立て、将来の帝の地位を確保できるようになった。これは実の父としての光源氏の政治的前途を輝かしく変える重要なことだと言える。それは藤壷との密通の事件を発見られなかったということと大きな関係があると思う。したがって、紫の上の登場は光源氏の苦痛を慰めることができる上に、光源氏の暗い世界を救って、政治的前途も明らかに蘇生できる。
三、紫の上の存在——光源氏の政治的世界の絶頂
1、光源氏の須磨行——復帰の準備
光源氏は弘徽殿女御の妹である、未来の后たるべく朧月夜と私通した。それは右大臣体制と朱雀朝に対する不逞な挑戦であったから、須磨退去を余儀なくされるのは当然であった。この須磨退去は再び都に帰らないことではなく、光源氏の政治的意図が隠蔽された。秋山虔氏によれば、「源氏の流離はいかにも多義的である。それは政治的位置における敗退であるが、その敗退は同時に、より深くは藤壷と共犯した罪の償いをも意味し、この償いあってこそ源氏の復帰も許されるのである。」と言われる。つまり、須磨退去ということは光源氏の政治的道の中で一つの邪魔だけであって、都に復帰することは当然なことであったと言える。
2、明石姫君の養母——将来の后の養育
平安時代の時、「名門の子の受領化していく時代相の中で、彼らの誇りとは裏腹な中央官界での不遇が、偏奇なまでの権勢欲となって娘に賭けられていく経緯が追われている。」臣籍に降った光源氏も娘によって政治的目標を実現してほしかった。さらに、宿曜の予言によれば、「御子三人、みかど、きさき、かならずならびて生まれ給ふべし、中のをとりは太政大臣にて位をきはむべし。」明石君との娘は未来の后であるに違いないと光源氏は思った。しかし、生母の明石君は身分が高い女性ではなかったから、明石姫君が将来皇后位に立つことは難しいかもしれなかった。明石姫君を后として育てるべくと思った光源氏は娘を引き取って、紫の上を姫君の養母とすることを依頼した。姫君に対する紫の上は明石君への嫉妬を引き起こし、自分が子供を生むことができない悲しみも思い出した。しかし、彼女の可愛い微笑を見たと、紫の上は養娘を愛育する理想的な養母に変貌してしまった。紫の上の心がこもる努力を通じて、宿曜の予言は達成されて、明石姫君が皇后になることは成功した。父としての光源氏は娘によって最高の栄華を得て、政治的頂上に至った。その中で、重要な役割を担う人は紫の上であったと思う。もし紫の上の寛容な受け取りや心尽くしの養育がなければ、光源氏の政治的成功もないかもしれない。
3、女三の宮の降嫁——政治的婚姻
朱雀院は出家する前に、その子女三の宮の将来を案じて、彼女の配偶者を光源氏に依頼することに決めた。その結果、もう四十歳に近づく光源氏は女三の宮を娶って、政治的地位も一番強くなった。身分が高い女三の宮の降嫁は紫の上にとってひどい打撃であった。紫の上は光源氏の浮気に悩んだ一方で、高貴な女三の宮に六条院の女主人公の地位を奪われることも恐れた。しかし、紫の上は前の明石君に対しては嫉妬したことから今女三の宮に対しては自制的で冷静したことへ変わる。秋山虔氏は「いま六条院に高貴の女三の宮が豪勢な儀式で輿入れしてくるという事態が彼女に与えた衝撃は大きい。しかしながら紫の上は、絶望的な心内をさりげなく隠蔽し、むしろ積極的に女三の宮迎え入れた協力し、六条院世界の調和を維持すべく努める。……(中略)そのようなしだいで、光源氏の正室は女三の宮であっても、その生活体系を実質的に支えるのが紫の上であることに変わりはないのだ。」紫の上は大きな犠牲を払ったこそ、光源氏と女三の宮は順調に結婚できた。常識から言えば、晩年の光源氏がもう政治的絶頂へ至ることが完成したが、もっと高いところへ登るのは子供にしかよらないと思う。
四、紫の上の死——光源氏の政治的世界の崩落
女三の宮の降嫁以降、紫の上は深く絶望を感じて、出家の願いが光源氏の愛執で許されなかったから、ついに死に至る病へ追いこんだ。療養するために、紫の上は六条院から離して、二条院へ移った。秋山虔氏は「彼女が六条院の春の町を去って二条院に移り、療養に明け暮れる身となったということは、六条院の世界が光源氏の顕栄を象徴するものであるだけに、彼の世界がはっきりと崩落への道を歩み起こしたことを意味するだろう。」と指摘している。女主人の移転に従って、六条院の秩序と光源氏の世界は乱れてしまった。そして、紫の上は出家できない心残りを抱いて亡くなってしまった。「昔大将の君の御母君うせ給へりし時のあかつきを思ひいづるにも、かれはなほもののおぼえけるにや、月のかほの明らかにおぼえしを、こよひはただくれまどひ給へり。十四日にうせ給ひて、これは十五日のあかつきなりけり(御法一三九三頁以下)。」葵上の死を背景として紫の上を葬送したこの場面は、もっとも愛している女性を失った光源氏の悲しみが感じられる。最も長く寄り添ってくれた紫の上の死は光源氏にとって大きな衝撃になった。彼は政治的権力、社会の地位、栄華の生活を捨て、出家を決意した。光源氏の物語はここまで終わり、彼の政治的世界もここから崩落になってしまった。紫の上の死後の一歳を語る作者は、その後の光源氏に筆を割くことをしなかった。
五、結論
以上、紫の上が登場したから亡くなったまで、光源氏の政治的世界への影響を解き明かすことを試みた。光源氏は紫の上の人生に大きな影響を与えた疑いないと言える。光源氏に発見られた以来、紫の上は最高の愛、栄華の生活、至上の地位を得るようになった。それと同時に、紫の上は光源氏の政治的世界に重要な影響を与えたとも言える。光源氏は政治的進歩を遂げた度に、紫の上の支持と寛容と離されなかった。諺の言うように、男性の成功の裏には、必ずしも優しい女性の支持がある。もし六条御息所が代わると、光源氏の官途はそんなに順調に進むことができなかっただろうかと思う。秋山虔氏によると、「男と女とが、異質の心のもちかたでつながっているのである。思えば光源氏から最上級に愛された紫の上のような無類の幸人も、内心は無類の嘆きをかかえこんでいて、その嘆きこそが生きる支えであった。一方、光源氏のような博大な愛情の持ち主が、いかに女の心をつなぎとめ慰めようとも、女と不幸を分け持つことができない。男も女とともに不幸なのであることを読者は思い知らされるだろう。」と言っている。光源氏と紫の上はお互いに影響したことは運命で予め定められていることだと思う。したがって、光源氏の政治的世界の蘇生、絶頂や崩落は紫の上の存在に関わっていると思う。
【参考文献】
[1] 秋山虔. 源氏物語の世界.日本文学新史古代Ⅱ[M]. 東京: 至文堂, 1990.
[2] 秋山虔. 源氏物語への招待.源氏物語必携[M]. 東京: 株式会社學燈社, 1967.
[3] 後藤祥子. 源氏物語五十四帖——梗概と鑑賞、桐壷~明石.源氏物語必携[M]. 東京: 學燈社, 1967.
[4] 野村精一. 源氏物語五十四帖——梗概と鑑賞、澪標~藤裏葉.源氏物語必携[M]. 東京: 學燈社, 1967.
[5] 高田信敬. 源氏物語考証稿[M]. 東京: 武蔵野書院, 2010.
[6] 朴光華. 紫の上の嫉妬の心について——明石の君と朝顔の君に対する[J]. 『日本言語文化研究』第十号, 2007.
【作者简介】
朱嘉泳(1990—),女,广东清远人,暨南大学外国语学院硕士研究生在读,主要研究方向:日语语言文学。