赵海天
要約:「失われた20年」を経た日本では、今、非正規雇用者の数が正規雇用者より大きく増加した。その原因として、小泉純一郎内閣によって改正された職業安定法が非正規雇用者の数を増加させ、非正規雇用者の年収が正規雇用者より低下し、ワーキングプアになったと思われる。ゆえに、筆者は比較研究を通じて、法律レベルからワーキングプアの発生要因とその解決策を分析してみる。
キーワード:ワーキングプア;職業安定法;非正規雇用者;比較研究
目的
太郎丸博(2007)はワーキングプア、ネットカフェ難民といった流行語がマスメディアをにぎわすようになって十数年が経った。NHKドキュメンタリーである「ワーキングプア~働いても働いても豊かになれない~」などを通じてワーキングプアの生活実態を世間によりよく知られるようになった。
そして、データを見ると、就業人口総数では「20~24」の正規の職員·従業員というグループは最も大きな減少傾向を呈しており、「45~49」の非正規の職員·従業員というグループは最も大きな増加傾向を呈していることが明らかになった。また、『労働力調査(2019)』では、2019年平均の正規の職員·従業員数は3494万人と18万人の増加となった。一方,非正規の職員·従業員数は2165万人と45万人の増加となったことが見られる。つまり、現時点では、日本における正規雇用者への採用が削減し、非正規雇用者への採用が拡大していくという趨勢が見られ、その背景には、「失われた20年」を受けて日本企業は人件費などを削減し、ランニングコストを減らそうとしていると思われる。
では、ワーキングプアの増加と非正規雇用者の拡大にはどのような関連性があるのであろうか。また、ワーキングプアが発生した原因にはどのようなものがあるのか。例えば、岩田正美(2007)は貧困の主たる要因を失業や就業条件の悪化など、経済構造から生み出された要因と子供の養育などによる生活費の増加や、定年退職による収入の減少など、生きていく上で、多くの人が遭遇する生活の変化が貧困を生むという要因に分けた。
以上の先行研究では、ワーキングプアの発生要因を経済的な要因に集中して検討を行った。しかし、「弱者は保護されようと欲して従属する。人間を怖れる人々が法律を愛する理由は、ここにある」とヴォーヴナルグは言うように、法律はワーキングプアを救助する一つの道具であり、法律レベルからその発生要因を検討する必要があると思われる。ゆえに、本稿では、ワーキングプアの増加と非正規雇用者の拡大、ワーキングプアが発生した法律レベルの要因を分析し、その解決策を提示する。
限定
ワーキングプアの概念が、単に低賃金労働者なのか、生活保護基準以下の就労所得にもかかわらず生活保護基準以下の就労所得にもかかわらず生活保護に取り残されたボーダーライン層なのか(駒村康平 2007)。つまり、ここにワーキングプアの定義を明らかにする必要がある。ゆえに、筆者はここに、福原宏幸(2011)のワーキングプアの定義を引用して本稿での問題点を検討したいと考えている。また、ワーキングプアの貧困の閾値は、生活保護受給額を基準値とする。そして、非正規雇用とは臨時社員や派遣社員、契約社員、パートタイマーやアルバイトといった正規雇用者以外の労働者のことであり、『労働力調査(2019)』によると、非正規雇用者の年収は男女ともに正規雇用者より低下し、ほとんどが「400~499万円」以下である。ゆえに、本稿では、非正規雇用者はワーキングプアと同一視される。
理論基礎
タウンゼント(1979)は自分の貧困理論についてこう述べた、「個人、家族、諸集団は、その所属する社会で慣習になっている、あるいは少なくとも広く奨励または是認されている種類の食事をとったり、社会的諸活動に参加したり、あるいは生活の必要諸条件や快適さをもったりするために必要な生活資源を欠いている時、全人口のうちでは貧困の状態にあるとされているのである。貧困な人々の生活資源は、平均的な個人や家族が自由にできる生活資源に比べて、きわめて劣っているために、通常社会で当然とみなされている生活様式、慣習、社会的活動から事実上締め出されているのである」。その貧困理論に基づき、小泉純一郎内閣によって改正された職業安定法が非正規雇用者の数を増加させ、非正規雇用者の年収が正規雇用者より低下し、ワーキングプアになったという仮説を立ててみる。
ワーキングプアに関する量的研究—比較研究
小泉純一郎内閣は、「失われた10年」を背景とした構造改革の実態に即した職業安定法への改正を行った(平成15年6月13日法律第82号)。
以下、本稿における仮説と関連があると思われる一部を対比する。(厚生労働省によって公布された資料を基に作成)
職業安定法
新条文 旧条文
職業紹介事業と、料理店業·飲食店業·旅館業·古物商·質屋業·貸金業·両替業等との兼業禁止規制が撤廃されました。 第33条の4(兼業の禁止) 料理店業、飲食店業、旅館業、古物商、質屋業、貸金業、両替業その他これらに類する営業を行う者は、職業紹介事業を行うことができない。
働省によって公布された資料を基に作成)
新条文では、さまざまな兼業禁止規制が撤廃され、労働者はパートタイムなどをすることができるようになり、改正職業安定法は日本における労働者層の非正規雇用化を加速させたと思われる。
また、労働政策研究·研修機構の以下のデータから見れば、職業安定法の改正前後の非正規雇用者の割合は2004年を境に、大きく増加したと思われる。
図:各年齢階級における正規、非正規の内訳 男女計 1988年~2019年
出所:労働政策研究·研修機構
ゆえに、小泉純一郎内閣によって改正された職業安定法が日本人の雇用形態の変化を加速させ、非正規雇用者の数を増加させ、非正規雇用者の年収が正規雇用者より低下し、ワーキングプア化になることにつながっているという仮説が成立すると思われる。
解決策
改正職業安定法の公布は非正規雇用者の数を増加させた。また、彼らの年収は正規雇用者より低下した。ゆえに、同一労働同一賃金の導入によって、非正規·正規雇用者の賃金格差を解消する必要があると思われる。
また、福祉国家は日本国民のセーフティネットの役割を演じたので、今の財政赤字を無視できないが、ある程度の「大きな政府」を再建したら、非正規雇用者の生活は保障されると思われる。
おわり
日本では、労働者層のワーキングプア化が加速しており、それを無視にしたら労働者層全體がワーキングプアによって購買力、消費意欲や労働者の質などが低下し、日本経済の復興のスピードも遅くなるおそれがあると思われる。
したがって、タウンゼントの貧困理論に基づき、ワーキングプアの法律レベルでの発生要因を分析し、そのような人たちがワーキングプア状態から脱出することを行うことが重要である。
しかしながら、今回の比較分析で利用された資料の数が不足するので、筆者は今後、一層の研究を進める必要があると思われる。
参考文献:
[1]岩田正美(2007)『現代の貧困——ワーキングプア/ホームレス/生活保護』ちくま新書
[2]志賀信夫(2016)『貧困理論の再検討 相対的貧困から社会的排除へ』法律文化社
[3]駒村康平(2007)「ワーキングプア·ボーダーライン層と生活保護制度改革の動向」『日本労働研究雑誌』2007年6月No.563号