日本水稲品質·食味研究会
丹野 久 教授
日本上川北部地域 名寄市
水稲育種研究:私は,1982年からおよそ20年間,北海道立農業試験場(現,北海道立総合研究機構 農業試験場)で水稲育種を担当した。育種を始めた当時は,東北以南の良食味銘柄米品種並みの良食味品種開発を目指した優良米早期開発プロジェクトが始まって3年目であった。同プロジェクトの成功のお陰で,現在の北海道の主要な良食味粳品種である「ななつぼし」,「ゆめぴりか」など粳12品種,および主要な糯品種である「風の子もち」,「きたゆきもち」の育成に関与できた。とくに,これら粳品種では,日本でも先駆けて低アミロース遺伝子の活用による良食味化を成し遂げた。
上川地域比布町2021年産「きたふくもち」(硬化性が高い)
上川地域比布町2021年産「はくちょうもち」(硬化性が低い)
日中共同研究:1993、1994年には日本国農林水産省の熱帯農業研究センター(現,国際農林水産業研究センター)と中国雲南省農業科学院との間で行われた日中共同研究に2年間参加し,水稲の耐冷性の研究を行った。北海道に帰国後,雲南省で考案した水稲開花期耐冷性の簡易検定法を試験し,取り纏めて学位論文を北海道大学に提出した。それまで水稲育種のことだけに集中していたが,2年間育種現場を離れて,新たに水稲耐冷性の研究を始めることができたのは幸運なことだった。
水稲栽培研究:水稲育種の後,数年間,水稲栽培研究を担当した。主なテーマは水稲直播栽培法,水稲除草剤試験,および水稲の穂ばらみ期不稔発生条件での隔離距離と交雑率との間の関係,2030年代の水稲生育に及ぼす地球温暖の影響予測であった。さらに,2年間だけではあるが,技術普及部の水稲担当専門技術員を経験した。このように,水稲育種を離れて,北海道の水稲栽培研究および米の生産現場の実情を幅広く学ぶ機会を得ることができた。
北海道米食味分析事業:一方,北海道では農業関係機関により,1990年から2020年まで北海道全域のうるち玄米サンプルを集めて,食味に関係が深い精米蛋白質含有率,アミロース含有率および米粒外観品質の実態を調査する分析事業が行われた·さらに,もち米についても2000~2003年の4カ年,品質に関わる糊化特性,搗き餅の硬化性および米粒外観品質の調査がなされた。同分析事業関係機関から分析データを提供してもらい,最も多くの年次あるいは多くのデータがある粳品種「きらら397」と糯品種「はくちょうもち」に絞って解析し,論文にとりまとめた。その時に,水稲生育との関係を明らかにするために,北海道各地の農業改良普及センターから,水稲作況試験のデータを使わせてもらった。これら機関の協力の下で,貴重な報告ができた。
日本水稲品質·食味研究会:2009年に創立された日本水稲品質·食味研究会(http∶//jsrqp.net/)に,創立当初から現在に至るまで所属している。同研究会会長が主導して農業研究雑誌に連載していた「米の外観品質·食味研究の最前線」に,北海道に関する総説を6回投稿した。それが本誌の既報(粮油食品科技,2020,28(6))および本報(粮油食品科技,2022,30(5))の骨格をなすものである。なお,それら日本全国の研究者から寄稿された主な連載論文は,「松江勇次編著,米の外観品質·食味 -最新研究と改善技術-」に纏められ,2018年に養賢堂(東京)から出版された。同研究会は,毎年1回日本各地で講演発表会を開催し,講演要旨を会報に掲載し発行している。さらに,「水稲品質·食味用語集」も今年発行する予定であり,日本の水稲品質·食味研究をリードする存在になりつつある。
/ 丹野 久 教授 /
私はすでに試験を行うこともないが,同研究会の活動に参加することにより,水稲品質·食味研究をできるだけ長く続けたいと思っている。研究は個人だけでも可能であるが,できるだけ多くの研究者と交流し,意見交換をすることで,研究発展の機会が増え,また精神的な充実が図れる。同研究会会員の中にはおよそ20%の中国会員がおり,国際的な交流も可能である。興味のある方には是非一度入会してもらえたらと考える。
——丹野 久
2022年7月13日は日本·北海道
(編集者注記: 丹野久教授は、雑誌「糧油食品科技」の第4期編集委員会の副主任です。)