丹野 久
(北海道農産協会,日本 北海道札幌,060-0004)
キーワード:うるち米粒外観品質;年次間差異;地域間差異;発生要因;寒地
北海道の1等米比率は,1970年代以降大きく上昇した。その結果,旧来日本全国に比べ低かったが,1998年以降高くなり,同年から2018年までの21カ年の平均で北海道が86%±7.1%(±標準偏差)と日本全国の 76%±5.9%より 10%高かった。(図 1)。しかし,その年次間差異を示す標準偏差の値は日本全国よりやや大きく,これを小さくする必要があった。
図1 北海道と日本全国における1等米比率および作況指数の年次推移[1]
また,同21年間で1等米比率が85%以下となった年次は7カ年あった。それらの落等要因は,多くの年次で,腹白粒や心白粒などの白未熟粒の発生による整粒不足や青未熟粒などによる充実度不足であった。さらに,アカヒゲホソミドリカスミカメの多発生による斑点米を含む着色粒の発生も見られた(表1,図2)。
表1 1998—2018年において北海道の1等米比率が85%以下となった7カ年の落等要因[2-8]
図2 農産物検査規格での玄米品位(等級)における被害粒,死米,着色粒および未熟粒の例
作況指数と 1等米比率の関係を見ると,1998—2018年では作況指数が高い年次ほど1等米比率が高くなった(図3)。一方,1971—1997年でこの関係は明確でなく,その要因は同期間における育種による外観品質の向上[10]や栽培法の改善[11]による影響が反映されているためと推測された。また,この相関関係は日本全国平均ではみられず,北海道に特徴的な関係であった。
図3 北海道と日本全国における作況指数と1等米比率との間の関係[1]
一方,食味に係わるアミロース含有率と精米蛋白質含有率(以下,蛋白)では,年次間差異が地域間差異に比べ大きく,それは栽培期間や生育ステージ別での気温の年次間差異が地域間差異よりも大きく,玄米収量などの生育特性でも大きいためであった[12]。これらのことから,米粒外観品質の年次間差異や地域間差異も水稲の生育ステージ別気温や生育特性の差異に影響されていることが考えられる。
そこで,本報では,米粒外観品質として整粒,整粒から除かれる未熟粒,被害粒および死米,整粒に含まれるが落等要因となる着色粒および精米の外観評価に影響する玄米白度と精米白度を取りあげた。主に 1999—2006年の 6~8年間,15地域における調査結果から,それら米粒外観品質の年次間と地域間の差異を解明するとともに,それらと気象および生育特性との間の関係を明らかにした[13-14]。さらに,未熟粒,被害粒,死米および着色粒の発生の抑制および玄米白度と精米白度の上昇を図る外観品質向上のための栽培技術が開発され,生産者に普及・指導されているので,その概要も紹介する。
整粒歩合,未熟粒歩合,被害粒歩合,死米歩合,さらに着色粒歩合,玄米白度および精米白度において,最大値と最小値の差異および標準偏差を年次間と地域間で比べると,いずれも年次間が大きかった。すなわち,年次間差異は地域間に比べ,被害粒が最大でそれぞれ6.5,6.2倍,次いで整粒,未熟粒および着色粒の2.5~3.1,2.9~3.1倍,玄米白度および精米白度が2.0~2.1,2.4~3.1倍で,それらに比べ,死米が最も小さく1.1,1.9倍であった(表2)。
表2 年次間と地域間における米粒外観品質の統計量[13-14]
出穂前24日以降30日間である障害型冷害の危険期(以下,障害危険期)の平均気温および出穂後40日間の日平均積算気温(以下,登熟気温と記す)の年次間差異は地域間差異に比べ,また年次間の標準偏差は地域間に比べ,それぞれ2.4~3.4倍および3.6~3.9倍と大きかった。さらに,不稔歩合,千粒重,玄米収量の生育特性および蛋白では,年次間の差異は地域間に比べ,また年次間の標準偏差は地域間に比べ,それぞれ1.3~3.1,1.5~3.4倍と大きかった(表3)。
表3 年次間と地域間における生育ステージ別気温および生育特性の統計量[13-14]
以上のように,生育ステージ別の気温や生育特性では,年次間差異が地域間差異よりも大きかった。そのため,米粒外観品質の年次間差異が地域間差異よりも大きいと推察された。
未熟粒歩合と被害粒歩合は,死米歩合よりも年次間と地域間の差異が大きいため,整粒歩合への影響が大きいと考えられた(表2)。それらの間の相関係数を比較すると,年次間では被害粒歩合が,地域間では被害粒歩合よりも未熟粒歩合で絶対値が大きく,整粒歩合により大きく影響すると思われた(表4,図4)。なお,供試年次の中で 2003年は,北海道の作況指数が73となる冷害年であった。本試験でも同年は他の年次に比べ被害粒歩合と着色粒歩合が高く,整粒歩合が低かった。
表4 年次間と地域間における米粒外観品質の間の相関係数
図4 年次間と地域間における未熟粒歩合および被害粒と整粒歩合との間の関係
また,整粒歩合は年次間と地域間で被害粒歩合と負の相関関係があり,さらに被害粒歩合と正の相関関係が見られる着色粒歩合(図 5)とも負の相関関係があった。整粒歩合は地域間で玄米白度との間に正の相関関係があった。また,玄米白度と精米白度との間には,年次間と地域間ともに正の相関関係があった(図6)。すなわち,整粒歩合,玄米白度および精米白度を向上させる要因は類似し,それら要因は被害粒と着色粒を減少させると思われた。
図5 年次間と地域間における被害粒歩合と着色粒歩合との間の関係
図6 年次間と地域間における玄米白度と精米白度との間の関係
死米が多いほど年次間では,概して被害粒と着色粒が少なく,玄米白度と精米白度が高くなった。一方,地域間では,死米が多いと被害粒や着色粒も多く,玄米白度と精米白度が低くなった。このように,死米とこれら外観品質との関係は,年次間と地域間で異なった。
年次間では,整粒が多いほど多収で低蛋白となった(表5,図7,図8)。また,障害危険期気温が高く不稔歩合が低く蛋白が低いほど,さらに登熟気温が高いほど玄米白度と精米白度が高くなった(図9,図10)。一方,被害粒と着色粒は,冷害危険期が高温で不稔が少なく千粒重が重く多収なほど(表5),また登熟気温がそれぞれ890,850℃になるまで高くなるほど,その発生が少なくなった(図11,図12)。
表5 年次間と地域間における米粒外観品質と生育特性および生育ステージ別気温との間の相関係数
図7 年次間と地域間における玄米収量と整粒歩合との関係
図8 年次間と地域間における精米蛋白質含有率と整粒歩合との間の関係
図9 年次間と地域間における精米蛋白質含有率と玄米白度および精米白度との間の関係
図10 年次間と地域間における出穂後40日間の日平均積算気温と玄米白度および精米白度との間の関係
図11 年次間と地域間における出穂後40日間の日平均積算気温と被害粒歩合との関係[14]
図12 年次間と地域間における出穂後40日間の日平均積算気温と着色粒歩合との関係[14]
死米歩合とこれら生育ステージ別気温や生育特性との間の関係は,整粒歩合や玄米白度と精米白度の場合に類似したがやや明瞭ではなかった。また,未熟粒歩合は,これら生育ステージ別気温や生育特性との間の関係に一定の傾向がなかった。
未熟粒歩合は年次間で登熟気温が808 ℃で最低となり,それよりも高くなると白未熟粒が多くなり[15-17]または低くなると青未熟粒が多くなり[18],同歩合は高くなった(図13)。さらに,登熟期間である出穂後 1~20日の前半および21~40日間の後半における日平均積算気温と未熟粒歩合との二次回帰曲線の決定係数を比較すると,登熟期間後半の値が大きく(表 6),影響度がより大きいと思われた。さらに,主要な未熟粒である乳白粒 ・ 腹白粒は,高温に加えて日照が少ないほど多くなった(図14)。
図13 年次間と地域間における出穂後40日間の日平均積算気温と未熟粒歩合との間の関係[14]
表6 出穂後1~20日間および21~40日間における日平均積算気温と未熟粒歩合との二次回帰式の決定係数の比較[14]
図14 出穂後40日間の日平均積算気温と日照時間が乳白粒ならびに腹白粒の発生に及ぼす影響[19]
地域間では,登熟気温が高いほど被害粒と着色粒が少なく,玄米白度と精米白度が高くなる傾向があったが,その他では相関係数の絶対値がやや小さく,明確な関係を示さなかった(表5)。ただし,死米は,泥炭土比率が高く灰色低地土比率が低いほど多くなった(図15)。すなわち,泥炭土は初期生育が劣るに関わらず,その後の窒素供給量が多く㎡当たり籾数が多くなる特徴がある[20]。そのため,出穂が遅れた穂に着粒した籾が十分に登熟できず,死米が多くなると思われた。このように,死米発生の地域間差異には,土壌型の違いが影響し,このことが前述した3. における死米歩合と被害粒歩合,着色粒歩合,玄米白度および精米白度との間の関係が,年次間と地域間で異なった大きな要因と思われた。
図15 調査地域間における土壌型比率と死米歩合との間の関係[14]
以上のように,外観品質を向上させるためには,未熟粒,被害粒,着色粒および死米の発生を抑制する必要がある。そのため,未熟粒および死米については,適正な栽植密度の遵守や側条施肥による初期生育の促進および早期異常出穂の発生回避により穂揃いを良くするとともに出穂を促進する。さらに,土壌診断を用いた施肥量の決定などにより㎡当たり籾数を適正化し,登熟期に土壌への十分な水分を供給し,同時に適期刈り取りを行う必要がある[11,18,21]。なお,これらの対策技術は,玄米形質の充実度を高めることや光沢を良くすることにも有効である[21]。さらに,死米については,いもち病による登熟停止を防ぐため,防除を十分に行う。
被害粒について,発芽粒には多肥を避け倒伏を防止する。胴割粒には刈り遅れで降雨に当てないことや,収穫後の高温乾燥を避ける。また,茶米には,強風地帯における防風網の設置やケイ酸資材施用により葉鞘褐変病や褐変穂の発生を軽減すること[22-24](図 16),および適期刈り取りを励行する[21](図17,表7)。
図16 出穂期のケイ酸含有率と褐変籾率との間の関係[23]
図17 刈取り時期と玄米外観品質との間の関係[21]
表7 適期刈りと遅刈りにおける着色粒から分離したAlternaria菌接種による籾(穎)の褐変と着色粒の発生,および同菌接種と遅刈りが玄米に及ぼす影響[23]
また,着色粒は,アカヒゲホソミドリカスミカメによる斑点米[25-26](図18)が主であるが,エピコッカム菌による紅変米も年次により発生する[24]。これらの粒は,いずれも割籾が多い品種で発生率が高いので,作付け品種の選定に留意する(図 19)。また,同カスミカメの多発生防止のために,畦畔や周辺のイネ科雑草の適切な管理と水稲への薬剤散布による十分な防除を実施する[25]。紅変米は,成熟が進む過程で玄米水分が高いほど感染しやすく症状も激しくなり、また籾周囲の湿度が高いほど多発するので(図 20),刈り遅れが生じないように注意し、収穫後は速やかな乾燥を行う[24]。
図18 アカヒゲホソミドリカスミカメの水田内発生量と粗玄米斑点米率との関係[26]
図19 品種間における割籾率と着色粒である斑点米および紅変米の各発生率との間の関係[27-28]
図20 Epicoccum purpurascens菌の接種による玄米の紅変と相対湿度との間の関係[28]
さらに,玄米白度と精米白度を向上させるためには,整粒歩合を高め,低蛋白化を図ることが必要である(図9)。そのためには,初期生育促進を含めた低蛋白米生産技術が有効である[29]。
備考:
1. 参考文献の中で、国家を明記するジャーナル以外、その他はすべて日本語のジャーナルである。
2. 本論文のカラーグラフは本誌のHPサイト(http://lyspkj.ijurnal.cn/ch/index.axpx)、中国知網、万方、唯普、超星などのデータベースをダウンロードして取得できる。