邵静
一、はじめに
単純動詞「つける」は多くの意味、用法を持つ典型的な多義語である。一方、「つける」を言葉の一つの構成要素とする語彙も多数存在する。日本で後部形態素が「~つける」の複合語が多数存在する。本稿は後部形態素「~つける」の前が助動詞、形容動詞、名詞などの例を抜いて、動詞連用形+「つける」のみを扱う。「v+つける」複合動詞の前項動詞と後項動詞の意味と特徴をまとめてみたいと思う。
二、BCCWJコーパスに基づく考察
筆者はBCCWJというコーパスで調査を行い、検索対象を「Yahoo!知恵袋」「国会会議録」「書籍」「白書」にした。ヒマワリに「つけ、」「つける」「つけた」のコンコーダンスラインを抽出し、5736件を得た。ごみ情報―本動詞用例や「名詞+つける」ような用例―を手作業で除いたところ、複合動詞の用例のみを2828例抜き出した。
詳しくデーターを分析して見れば、「v+つける」の複合動詞が99個出た。中に、「煽りつける」「組みつける」「食べつける」のような一回か二回しか出てこない言葉が多い。つまり日常生活では、この99個が全部高い頻度で使われるわけではない。
2828の用例にトップ30が2443を占める。つまり、この30個の複合動詞は日常的に使われる「v+つける」複合動詞を代表することができるといえよう。
筆者は表の複合動詞を分析し、五つのグループに分けて分析してみる。
第一種類、「つける」が中心となっている語彙:結びつける、貼りつける、取りつける、くっつける、巻きつける、打ちつける、括りつける
例1:電柱に糊でポスターを貼り付けるですが、これは全て違反屋外広告。(Yahoo!知恵袋http://www.city.ayase.kanagawa.jp/hp/page0000260/htm)
例のように、このグループの語彙は、「~つける」が複合動詞の中心となっている。ポスターを電柱につけるが主旨で、「貼り」は方法、「つける」が目的。「つける」を達成させるために、「結び」「貼り」「取り」「巻き」「打ち」「括り」といったような動作が必要である。これらの動作は全て手で行われ、動作者の意識が見られる。そして、このグループの「~つける」は全部「接触·付着」の意味をもつ。
第二種類、「~つける」が語彙の中心ではなく、修飾部分となり、言葉に「方向性」をもたらす:駆けつける、引きつける、投げつける、見せつける、突きつける、植え付ける、漕ぎ着ける、擦りつける
「駆ける」「引く」「投げる」「突く」「植える」「漕ぐ」「擦る」、このような動詞はそもそも「へ」「に」「まで」の後ろに現れ、方向性を示す機能を持っている。「v+つける」の前項要素として、後ろの「~つける」と組み合わせたら、たとえ文中に「へ」「に」「まで」のような副詞がなくても、方向性を表すことができるようになる。このグループの「~つける」は「場所に到達する」の意味をもつ。
第三種類、「~つける」が語彙の中心ではなく、修飾部分となり、前項動詞を強調する:押しつける、睨みつける、決めつける、叩きつける、やっつける、おさえつける、怒鳴りつける、叱りつける、売りつける、締めつける、殴りつける
例2:父は人は好いのだが短気で、かっと怒鳴りつけることがあった。(松本侑子『花の寝床』集英社)
例のように、このグループでは「~つける」の前にくる動詞は「睨み」「怒鳴り」「しかり」「殴り」のように「暴力傾向」を表すことが多い、その上、たとえ「押す」「決める」「締める」のような中立的な単純動詞でも、「~つける」とセットになると、「強引的」な雰囲気が生まれてくる。このグループの「~つける」は前項動詞を強調するとともに、全体の複合動詞に「強引的」「力で通す」ような雰囲気をもたらす。
第四種類、「~つける」が語彙の中心ではなく、修飾部分となり、動作の習慣性を表す:聞きつける、書きつける
例3:厭がられるのを承知の上で思ひきって書きつけると、近代西欧語の打ち何か一つをいちおう勉強すること。(丸谷才一『文章読本』中央公論社)
このグループの「~つける」前の動詞は、自意識で何度も行うことのできる動作を表す言葉。「~つける」は動作の習慣性を表す。
第五種類、慣用句に近い複合動詞:見つける、ぶつける
「見」と「ぶ」と「つける」がバラバラになったら、「見つける」「ぶつける」全体の意味が失われる。この二つの言葉は既に慣用句みたいに、我々の生活でよく使われている。
三、終わりに
本稿は30個の「v+かける」複合動詞を五つのグループに分け、例を通じて、それぞれのグループの前項動詞と後項動詞の特徴を分析してきた。後項要素「~つける」は「接触·付着」、「場所に到達する」の意味を持ち、前項を強調する、動作の習慣性を表すといったような機能を持っていて、多義ではあるが、意味は「接觸·付着」、「場所に到達する」「強調」「習慣的に」に集中することが明らかだった。つまり、単純動詞「つける」は多義であっても、我々日常生活でよく使う「v+つける」複合動詞の後項要素「~つける」の意味は四つに集中している。
そして、前項要素は、手で行われ、動作者の意識が見られる動詞や、方向性を示す動詞や、「暴力傾向」を表す動詞、自意識で何度も行うことのできる動作を表す言葉がよく使われている。
参考文献
[1] 姫野昌子,1997,複合動詞「~つく」と「~つける」,語構成[M].ひつじ書房
[2] 小野尚之,2001,日本語複合動詞の語彙意味論的分析[C],『日本教育と日本学研究』p188
[3] 王靓云,2016,『多義語「つける」の意味分析―認知言語学の視点から』修士論文